緊急地震速報の特性に伴う限界を大まかに踏まえておく意味で。
誤報
高度利用者向けの緊急地震速報の場合、迅速性の観点から1つの観測点だけで地動を検知した場合にもそれを発表することがありますが、1つの観測点のデータのみを元にしている段階では事故や落雷等による誤報が含まれてしまう場合があります。ここでは無感地震(発表対象の震度計での有感〔震度1以上〕の基準には満たないが地震計で判別可能な地震)で発信された事例・規模の予測が大きく異なって発信された事例などは除きます。
2004年2月25日の試験運用開始から2007年8月31日までに提供された緊急地震速報1713例のうち、誤報は30例ありました。
以下に誤報事例の一部を挙げておきます。
今のところ、誤報(落雷等地震以外の原因で発信される緊急地震速報)は1観測点の情報を用いて発信されたものだけであり、2観測点以上のデータを元に発表する事になっている一般向け緊急地震速報で誤報が発信される可能性は低いと言えます。
主要動の到達に発信が間に合わない
- 震源に近い所では緊急地震速報が提供される前に主要動が到達することがあります。
- 特に発信される条件ぎりぎりの規模の地震では、地震の規模が条件より小さめに予測されて発信が遅れたり、発信されなかったりする可能性が高くなります。
- (map) 2008年05月08日01時45分頃 M6.7 最大震度5弱 一般向け緊急地震の発信は地震波検知後58.3秒後(緊急地震速報の内容・主要動到達時間)
- (map) 2008年10月04日16時24分頃 M3.5 最大震度4 一般向け・高度利用者向け共に発信無し
- 諸島部などの観測密度の低い地域で発生する地震では、発表が遅れる可能性が高くなります。
予測の誤差
従来の揺れの大きさの結果を伝える地震速報と異なり、少数の観測点で短時間の間に得られた観測データを短時間の処理によってそれ以降に起こる揺れを予測するという性質上、その発表にはどうしても誤差が付きまとうことになります。また、TVなどで地震速報として流れる震度の観測点と緊急地震速報のために使われている観測点の数や位置は必ずしも一致してはいません。
緊急地震速報は震度にして±1階級程度の誤差があると説明されていますが、時にそれ以上の誤差を招く場合もあります。(震度4以上が予測された地域で観測される震度と予測される震度の階級が一致するのは3-4割、±1階級の誤差で収まるケースは7-8割程度とも。)
誤差が大きくなりやすい例を幾つか以下に挙げておきます。
- 緊急地震速報の第1報・及び初期段階の報。地震波の観測点数・観測時間が少ない初期の段階において発信される緊急地震速報では発生時刻・震源の位置・規模の推定の精度は低く、後の報になるほど精度が高まる特徴があります。但し、最終報であってもその後発表される地震速報での値と一致する訳ではありません。(元にするデータや処理手法がやや異なる。)
- 地震の揺れが続いている最中に、別の地震が発生した場合。前の地震の揺れがまだ観測されている段階で別の地震が発生した場合、観測データの取り扱いに失敗し大きくその予測を間違う場合があります。
- 小さな地震の直後に発生した大きな地震。
- 350km以内でほぼ同時に発生する複数地震。
- 余震や群発地震など短時間に繰り返し発生する地震。
- マグニチュード8以上の巨大地震。マグニチュード7程度までの地震では比較的早くマグニチュードを求めることが出来ますが、それよりも大きな地震では以下のような問題が顕著になってきます。
- 巨大地震では地震断層のずれ破壊の開始から終了まで数十秒あるいは1分以上かかる場合があり、規模を予測する段階以降に生じる断層破壊の広がりやそれに伴う地震の規模(マグニチュード)の推定が困難になります。
- 巨大地震では断層長の長さが100kmを超えることもあり、震源(地震のきっかけとなる場所)までの距離と断層面までの距離とのずれが無視できない場合など、地震の規模・震源までの距離・揺れの強さの単純な関係式による揺れの強さの推定は大きな誤差を生むことになります。
- 地震観測網から100km程度以上離れた地震。観測網から遠く離れてしまうと、少しのノイズ等による検出のずれが震源の位置や地震の規模の推定値を大きく揺さぶる事になり、精度が悪化しやすくなります。
- 深さが100km程度より深い所で起こる地震。このような深い所で発生する地震の場合、地震動は複雑な経路で伝わり異常震域が発生することも多く、震度分布を正確に予測することはかなり困難になります。150km以上深い所で発生した地震で防災の対象となる震度5弱以上の揺れの観測記録が無い事、現状震度予測に用いられている式では誤差がかなり大きくなってしまう事により、震源の深さ150km以上と推測される地震に対し気象庁は防災上の必要性が低いとして緊急地震速報での震度や主要動到達時間の予測を当面行わないとしており、一般向け緊急地震速報の発信も抑止される事になっています。(⇒深発地震)
より小さな地震
緊急地震速報は、高度利用者向けのものであっても日本周辺で発生する有感地震の全ての発生を伝えるものではありません。高度利用者向けの発信基準程度の地震については、機器の精度や地動ノイズ等による検出限界に迫り、震源の位置と地震の規模を初期微動の段階で安定して推定することが困難な場合も多いため、単に発信基準を下げれば解決するわけではない模様です。最も、例え検出できたとしても小規模な地震では有感となる範囲が狭くなるので、速報を発信する頃には既に主要動が到達した後となる場合が多くなるかもしれません。 国民への周知緊急地震速報はどのようなものか、どのようにして受信できるのか、受信したらどのように行動すべきなのか、など緊急地震速報そのものに関してあまり良く知られていないという問題。緊急地震速報を受け取れる人が減る、受け取れても正しく活かせる人が減る、という事に繋がる可能性があります。
参考
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